(3年前のイントロダクション)
2018年のインフルエンザの流行は日米でこれまでにない拡がりをみせています。
ウィルスの詳細な報告はありませんが、ワクチンが普及していることを考えれば、ウィルスが微妙な変異をしているとしか考えられません。
有力な抗ウィルス剤が開発されているために死者続出という事態にはなっていませんが現在の抗ウィルス剤が永遠とはいえません。
ウィルスとの戦いは続くと考えた方が無難でしょう。
インフルエンザウィルスはドリフトやシフトと呼ばれる様々な変異を起こしながら流行することが知られています。
ワクチンはそれまでの流行を参考に毎年予想ウィルス型を決めて製造されますがはずれも多々あります。
(現段階では)医薬品タミフルなどはその様々な変異に対応できる画期的な医薬品。
ウィルスが移動するための赤血球凝集素ノイラミニダーゼ(NA)を失効させて変異に対応しています。
タミフルやリレンザがノイラミニダーゼ(NA)阻害剤といわれる所以(ゆえん)です。
*合併結合変異ウイルス(reassortant)と呼ばれていた頃の記述です。 COVID-19時代は、合併結合変異ウイルスが遺伝子再集合(reassortment)や2-3重変異と呼ばれるようになり、変異株の乱出とともにCOVID-21時代となる可能性があります。 なお記事は(復刻版)です。当初の内容やデータは変更しておりません。
リアソートメントウィルス(遺伝子再集合)と
コロナウィルス リアソータントウィルス(合併結合変異ウイルス)と呼ばれた時代の終焉
1.リアソートメントウィルス(reassortment viruses)とは
リアソートメントウィルス(遺伝子再集合)は、かってのリアソータントウィルス(合併結合変異ウイルス)と同義ですが、最近は前者で呼ばれることが多くなりました。
哺乳類の体内に複数の型のウィルスが入り、合体して遺伝子が混血になることを指します。
インフルエンザウィルス(コロナウィルス)のケースでは球形表面のスパイク(突起)群にある、二つの赤血球凝集素ヘマグルチニン(hemagglutinin:HA) とノイラミニダーゼ(neuraminidase:NA)の双方か、どちらかが変異を起こして、サブタイプ(例H5からH9、N1からN2)が変わっているケース。
*ウィルスタイプ表示例:A型スペイン風邪 A(H1N1)、A型香港風邪 A(H3N1)
鳥インフルエンザウィルスの場合は(永らく)人間に感染しないとされていました。
いつの頃からかヒトに直接感染するだろうと疑われ始めましたが、それは鳥感染ウィルスと人間感染ウィルスの双方のウィルスに感染する豚がウィルスをリアソートメントさせる元凶となっているのではないか、といわれるようになりました。
パンデミック(大流行)が恐れられるのは、このようにサブタイプが変異する場合で、原因不明な場合は、シフトと呼んで警戒しています。
ドリフト(細かな株の変異)とシフトの概念、リアソートメント(リアソータント)の概念は時代と共に変える必要があるかもしれません。
2009年頃より米国保健行政当局CDCは鳥インフルエンザと呼ばれるA(H5N1)ウィルスはサブタイプに大きな変化がないままに、人間同士の感染力が強いウィルスに変異する可能性を警告しています。
同時にこれまでの学識とは反する事象として、豚など哺乳類を介さずに、鶏から直接人に感染するウィルスに(何処かで)変異している可能性も指摘しています。
ウィルスの小さな変異(新株)でも大流行(パンデミック)の可能性があるということです。
メキシカン・インフルエンザ(新型豚インフルエンザ)は人造ウィルス?: ウィルスは実験室で造られた?
2. ヨーロッパで流行したリアソートメントウィルス(リアソータントウィルス)
2001年から2002年にかけて、 ヨーロッパを中心に世界的に流行したインフルエンザからは、ヒトのA(H1N1)型とA(H3N2)型のリアソータントと思われるA(H1N2)型ウィルスが分離検出されました。
豚と人間のどちらが複合させたかの結論は出ませんでしたが、その頃から人間の体内で異なる型のウィルスがリアソータントしたケースも考えられるようになりました。
鳥インフルエンザA(H5N1)はサブタイプの変異を起こさない株の変異(ドリフト)でありながら、強毒を持つ可能性があるからです。
3. シフト(shift):不連続抗原変異(antigenic shift)とは
シフト(shift)とはリアソートメントなどにより、ウィルスに不連続な抗原変異が起きること。
海外の学者はantigenic shift(不連続抗原変異)と呼んでいます。
ウィルス表面のスパイク中の二つの赤血球凝集素
ヘマグルチニン(hemagglutinin) とノイラミニダーゼ(neuraminidase)の双方か、どちらかが変異を起こします。
ワクチンが全く効かないために、シフトが起きたウィルスは大流行パンデミックの基となります。
4. ドリフト(drift):連続抗原変異(Antigenic drift)とは
インフルエンザに度々感染するのは、主として赤血球凝集素ヘマグルチニンの変化が早いA型インフルエンザが、細かな変化を起こして、人間の抗体を避けていくからです。
この変化を海外の学者はドリフト(Antigenic drift:連続抗原変異)と呼びます。
二つの酵素ヘマグルチニン(hemagglutinin) とノイラミニダーゼ(neuraminidase)のサブタイプには変異が見られずに、酵素に小さな種株(strain)の変異が見られます。
(ヘマグルチニンの場合はウイルスゲノム第4分節上の塩基配列の変化による)
一般的には連続抗原変異(Antigenic drift)が予想と異なってもワクチンはある程度有効とされています。
ワクチンは強毒のA型が2種、弱毒のB型が1種で構成される3種混合(trivalent influenza vaccine)によって、予想されるドリフトに対応しています。
強毒型インフルエンザのA型は(H1N1)と(H3N2)の亜型を予想して混合されます。
A(H1N1)は世界を震撼させたスペイン風邪の系統。近年ではソ連風邪が有名。
A(H3N1)は70万人が死亡したといわれる香港風邪の系統。
日本では2009年に大流行しました。
インフルエンザのワクチンは基本的にはシフト変化には対応できません。
A(H3N2)ウィルスを例にとると予想したドリフト変化のタイプはA/Texas(テキサス)/50/2012(X-223)(H3N2)、A/Victoria(ビクトリア)/361/2011(H3N2)などと表現されます。
以前は遺伝子(塩基配列)全てが同一ではない場合は「様」(よう:like)という表現を使用していました。
5. (参考)エピジェネティクス(epigenetics)
エピジェネティクスは2010年頃より医療業界で話題となっている概念。
DNAたんぱく質が突然変異や親から子へ受け継がれる以外に、食生活、体組織の酸化、大気汚染、紫外線などの環境汚染によって変化し、疾病が発現する実態を探求する学問。
DNAたんぱく質のアミノ酸配列(組成)を変化させることなく機能が異質となる現象の追求と言い換えることができます。
6. (参考)厚生労働省が毎年発表する3種混合インフルエンザ・ワクチンのタイプ
2017/18冬シーズン
A型株
A/シンガポール/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09
A/香港/4801/2014(X-263)(H3N2)
B型株
B/プーケット/3073/2013(山形系統)
B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)
参考:「国内のインフルエンザウイルスの検出状況をみると、直近の5 週間(2017 年第52 週〜2018 年第4 週)ではB型が最も多く、次いでAH1pdm09 型、AH3 型の順。
全国の保健所地域で警報レベルを超えている保健所地域は494 箇所(全47 都道府県)
全国の医療機関をこの1 週間に受診した患者数を推計すると約274 万人」
(厚生労働省)
2013/2014冬シーズン
A/California(カリフォルニア)/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
A/Texas(テキサス)/50/2012(X-223)(H3N2)
B/Massachusetts(マサチュセッツ)/02/2012(BX-51B)(山形系統)
2012/2013冬シーズン
A/California(カリフォルニア)/7/2009(H1N1)pdm09
A/Victoria(ビクトリア)/361/2011(H3N2)
B/Wisconsin(ウイスコンシン)/01/2010(山形系統)
2006/2007冬シーズン
A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
A/Hiroshima(広島)/52/2005(H3N2)
B/Malaysia(マレーシア)/2506/2004
2002/2003冬シーズン
A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2)
B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株)
初版: 2004年01月21日 10:51(no.2004012138)
改訂版:2009年1月(ウィルスの変異:シフトとドリフトの常識が変わる?)
改訂版:2014年12月05日
復刻版:2021年04月18日
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